「住宅すごろく」という言葉
皆さんは持ち家に住んでいますか? それとも賃貸住宅に住んでいますか?
日本では「家を持つ(家を買う・家を建て替える)」という考えが主流です。
それを表す言葉として「住宅すごろく」という言葉があることをご存じですか?
住宅すごろくとは、1970代に流行した住む家の理想とされたライフサイクルをゲームのすごろくのように表現したものです。
具体的には「実家→大学進学又は就職を機にアパート賃貸一人ぐらし→結婚→(分譲)マンションを借りる→分譲マンションを買う→分譲マンションを売却→庭付き一戸建てを買う」という流れです。
ところが現在、この住宅すごろくのゴールは変わりつつあります。
こんな声を聴いたとこありませんか?
「庭付き一戸建てを買ったけど、子どもが独立して家を出て部屋が余っている。掃除も大変。歳を取ると二階に洗濯物を干しに行くのも大変。」
特に郊外の戸建て住宅を買った方の中には、「一戸建てを売って、利便性の良い分譲マンションを買うか、賃貸住宅に移り住む」ことをゴールにする人も増えています。
実は私の両親も家を売却して現在は賃貸住宅に住んでいます。
我が家の場合、私も姉も実家がある名古屋市に帰るつもりはないので家を相続したいと思いませんでしたし、万一のことがあった場合に名古屋に行き来するのも大変だ、と思って家を売却しました。でも両親は仕事をしていなかったので、私が保証人になることを条件に、今の賃貸住宅を借りることができました。
ところが友人の不動産屋さんに聞いたところ、「それは運がいいよ」と言われました。なんと、高齢者に対して家を貸したくないと考える大家さんが多いというのです。
高齢の単身者世帯は持ち家率が低い
まずは我が国の高齢者の状況を見てみましょう。
令和2年版高齢社会白書によると、65歳以上の者のいる世帯は、令和元年現在2,558万 4,000世帯であり、全世帯(5,178万 5,000世帯)の 49.4%を占めているとのことです。
中でも65歳以上の一人暮らしの者は男女ともに増加傾向にあり、昭和 55年には 65歳以上の男女それぞれの人口に占める割合は男性 4.3%、女性 11.2%であったのに対し、令和 2年には男性 15.0%、女性 22.1%にまで増えているのです。
次に、65歳以上の者のいる主世帯について、住宅所有の状況を見ると、持家が82.1%と最も多くなっています。ただし、65歳以上の単身主世帯の持家の割合は66.2%となり、65歳以上の者のいる主世帯総数に比べ持家の割合が低くなっているのです。
さいたま市の高齢者の住環境は?
次に、さいたま市の高齢者(65歳以上)の住環境についてみてみましょう。
65歳以上がいる世帯は89,900世帯ですが、「65歳以上の単身世帯」は36,000世帯であり、全体の約40%を占めています。単身世帯の持ち家率は67.0%であり、夫婦世帯と比較すると持ち家比率が低いことがわかります。
世帯数(世帯) | 割合(%) | |||
持ち家 | 借家 | 持ち家 | 借家 | |
65歳以上の単身世帯 | 36,000 | 17,700 | 67.0% | 33.0% |
いずれか一方のみが65歳以上夫婦 | 8,200 | 1,800 | 82.0% | 18.0% |
夫婦とも65歳以上 | 45,700 | 6,000 | 88.4% | 11.6% |
総数 | 89,900 | 25,500 | 77.9% | 22.1% |
今は夫婦世帯であっても、配偶者との死別などにより単身世帯となった場合、家が広い等の理由で賃貸住宅を選択する人が一定数いることがうかがえます。
高齢者が家を借りにくいって本当?
次に、高齢者が賃貸住宅を借りにくいかどうかというデータについては、(公社)全国宅地建物取引業協会連合会(以下「全宅連」とします。)が平成30年に全宅連会員に対して行った調査結果を見てみます。
「単身高齢者世帯(60 歳以上の男女何れか)又は高齢者を含む夫婦世帯(以下「高齢者世帯」とします。)に対して民間賃貸住宅のあっせんは行っていますか?」という質問に対し、「行っていない」が24.8%、つまり1/4ということです。
簡単に言うと、高齢者になって家を借りようと思い不動産会社に行っても、民間賃貸住宅のあっせんをしてくれる会社は4社に1社ということです。つまり、話を聞いてくれる不動産会社を見つけることが第一のハードルとなります。
運よくあっせんしてくれる不動産会社に巡り合ったとしても、次に「大家さん」という壁があります。先程と同じ調査で、「なぜあっせんしないのですか?」と聞くと、「大家の理解が得られないから」が51.5%となっています。
つまり、大家の二人に一人は高齢者に家を貸したくない、ということです。
では何故、大家さんは高齢者に家を貸したくないのでしょうか?
一番の理由は「孤独死の恐れがあるから(89.3%)」。続いて「意思能力を喪失する恐れがあるから(59.8%)」、「高齢者向けに設備等が対応しておらず、事故の可能性があるから(56.8%)」となっています。
つまり、別のブログでも書きましたが「孤独死」がやはり問題になっているのです。何故ならば、孤独死は物件の価値を低くするだけでなく、他にも大きな問題があるからなのです。それは、「賃借権は相続される」ということです。
貸借権の相続という難問
入居中の死亡の場合でも賃貸借契約は終了せず、残置物や賃借権は相続人に相続され、相続人との間で賃貸借契約が継続することとなります。どういう意味か分かりますか?
例えば配偶者と死別したが子どもが一人いる方が、一人で賃貸住宅に住んでいたとします。不幸にもこの方が亡くなった場合、大家さん(不動産会社)は子どもに連絡し、賃貸借契約を継続するのかどうかを確認します。子どもに契約の意思がない場合、賃貸借契約を終了し、残置物の撤去を求めればよいことになります。もしも原状回復(家をきれいにする)の必要がある場合、その費用も子どもに請求することができます。
ですが、子どもがいるかどうかわからない者が一人で賃貸住宅に住んでいて、不幸にもなくなったとします。この場合、大家さんはその賃貸住宅の残置物を勝手に処分することはできないのです。相続人を確認し、賃貸借契約の終了と残置物処理の同意を得る必要があります。相続人がいない(見つからない)場合、家庭裁判所に相続財産管理人選任を申立て、選任された相続財産管理人に対処してもらう必要があるのです。しかも、原状回復の必要がある場合、その費用を誰にも請求することができないのです。
ものすごく面倒ですね。しかも、大家さんにとってはかなりのダメージですよね。
住宅問題のプロ、赤松ひろかずの出した答えは?
でも安心してください。
この問題についても赤松ひろかずは全宅連から業務委託を受けて調査研究を行い、その解決策について提示したのです。そして、「超高齢社会が来る!仲介は、管理は、その時どうする~高齢者の日賃貸住宅への入居支援ガイドブック~」を2021年10月に発行したのです。
この調査研究の影響もあり、国土交通省及び法務省は、賃貸借契約とは別に、賃借人と受任者の間で締結する残置物の処理等に関する契約(①賃貸借契約の解除事務の委任に関する契約と、②残置物の処理事務の委任に関する契約)等にかかるモデル条項を公開したのです。
まだまだ知られていませんが、大家さんの不安を解消するための仕組みはすでに整備されているのです。
どうして私がこの問題に詳しいのか、一生懸命調査研究したのか。
実は私も賃貸住宅に住んでいるからなのです。そして私の知人にも、一人で賃貸住宅に住んでいる者がいます。こういう人が安心して暮らせる仕組みを作るのが重要だと思い、まさに自分事として、この調査研究に取り組んできました。
まだまだ認知されていませんが、実は高齢者に賃貸住宅を貸すことは「怖い」ことではないのです。
契約時に入居者の身分確認、例えば交友関係などをしっかり調査すればいいのです。また、単身者の場合は契約時に残置物の処理等に関する契約を交わせばいいのです。万一に備えて家財保険を利用するという手もあります。そしてあまり知られていませんが、賃借権が相続されない「終身建物賃貸借契約」という契約手法を使うという手もあります。
契約中は、入居者に関係する方々とのネットワークを構築して、みんなで見守りを行えばいいのです。
特に高齢者の場合は「地域包括支援センター」と連携すればいいのです。
「さいたま市居住支援協議会」に連絡すればいいのです。
そして、人による見守りが難しい場合は機械を使えばいいのです。
高齢者に賃貸住宅を貸すことは「怖い」ことではないのです。それを大家さん・不動産業者に知ってもらうことが重要です。そのための啓もう活動をしっかりと行えばいいのです。活動を進めていけばいいのです。
高齢者でも賃貸住宅を簡単に借りられるようにする。
これが私の考えです。
まちづくり経験値99000の男、赤松ひろかずにご期待ください!